…ピピピピッ…
携帯の目覚ましが鳴る土曜日の朝。
今日はいつもより一時間早く出勤しイベントの用意をしなくてはいけない。

隣に眠る彼女を起こさないよう起き上がり、出来るだけ音を立てないようにと前もって用意していたスーツに着替える。
部屋を出る時もテレビの音も出来るだけ小さくして彼女が寝ていられるように動く。

たまにこうして休日に仕事が入るのは職業柄仕方が無いけれど、出来ればもっと彼女と寝ていたい。
こればかりはどうしようもないか、と諦めて時間を確認する。

家を出る前にもう一度彼女の寝顔を見ていこうと寝室へ入ると寝息が聞こえる。
今日は目覚ましも鳴らないからよく眠れるはず。
いつも弁当作りや出勤の準備でバタバタする朝。
休日くらいゆっくり休んでほしい。

ベッドの傍へ行き寝顔を眺め、額にキスをすると「んん…」と寝返りをうつ。
起こしてしまったかと思ったけど、すぐに寝息が聞こえた。
起きなかったことにホッとしてベッドから立ち上がると「もう行くの?」と欠伸混じりの声。

「悪い、起こした」
「ううん、起きた」

優しい彼女は目をこすりながら体を起こし、手招きする。
何かあるのかと近づくけど手招きはやまず体を屈めると首に回った手。
ギューっと頬をくっつけ「いってらっしゃい。頑張ってね」と言ってくれる。

普段してくれないことだから驚いた。
これは寝起きの時で、しかも稀にしかしてくれない。
久々の休日出勤も彼女からのこれがあるなら少しは苦も半減される。

彼女の手が離れると笑顔の彼女の頬にキスをして「もう一回寝なよ」と言った。

「うん。今日は夕飯作って待ってるよ」

そう言ってくれた彼女に手を振って寝室を出る。
そして急いで家を出る。

土曜日で人通りの少ない通勤路を歩く途中、彼女からのメールで可愛いハートの画像だけが送られてきた。
これも休日出勤の時に彼女が起きている時だけにしかないこと。
彼女なりの応援メールらしい。

言葉はなくてもこれだけで頬が緩んでさっさと仕事を終えて帰宅しようと気合いが入る。

年頃ばかりで気がやむ毎日だけど彼女がいれば乗り切れる。
また寝るだろうから返信せず、にやける顔を抑えながら歩くスピードを早めた。



…end