「.ぉ...は?」
「えっ??」
風の音が邪魔で、よく聞き取れなかった。
「お前、名前は??」
それを察してか、はたまたイライラしたせいか、彼は声のボリュームを上げて問いかけてきた。
「七海飛鳥ー!」
私もそれに応えるように、叫んだ。
「あ!?それって"ナナミ"と"アスカ"のどっちが名前なんだ?」
少し笑いながら、彼が言った。
顔は見えなかったけど、掴まってる背中が小刻みに震えたからわかるよ。
「っし、着いた!」
「あ、ありがとッ!!」
自転車を放り出して、校門に滑り込んだ。
もう辺りに人は見えなくて、多分みんな体育館で入学式をしているんだろう。
「アスカ走るぞ!」
「えっ!?きゃ...っ」
いきなり手を握られたかと思えば、ものすごいスピードで走りだす彼。
...そういえば私、まだこの人の名前知らない。
「ねえ..っ、名前は?」
少し息切れしながら、私は聞いた。
「涼也、望月涼也だ!」
彼...望月くんは、振り返らないでそう言った。
体育館に着いたころにはもう、入学式は終わってしまっていた。
何故だかさっきまで繋いでいた右手が、すごくすごく熱かった。
