「申しわけありません副社長。この子、少し緊張してるんです」
副社長に向かい、ふくれっ面をしていた私を。慌てて庇う様に助け舟を出してくれたのは佳乃だった。
「いい歳をして、緊張もなにもあるか。今迄何度も会議経験位してるだろ」
「そりゃ、コピー取りやお茶出しとかでなら参加したことはあります」
「は?」
「雑用や仕事補佐としてなら出席していましたけど。今回のように責任のある仕事としては、初めてで……」
さっきまで見下し気味に私を見降ろしていた副社長は、呆れた様な顔つきに変わった。
「バカか」
「バ、バカってなんですか⁈ そりゃ、仕事ができるかと聞かれたら出来ない部類に入るかもしれないけど。これでも一生懸命毎日仕事をしてます」
いくら副社長でも、ほぼ初対面の相手に向かって「バカ」なんて口にするのは失礼だ。
確かに私は佳乃に比べたら、仕事も出来なくてバカだけど。
次期社長を約束されている副社長だって、社長が築き上げた会社を何の努力もせずに引き継ぐだけじゃない。
頭では次々に文句が浮かび上がるけれど、それを上手く口に出して伝えることが出来なくて、当然口を噤むしか術がなく。奥歯を噛みしめて黙り込む。



