この偉そうな副社長は、国領真司郎(こくりょうしんじろう)。
国領グループ社長の一人息子である。
そう、世に言う御曹司ってやつだ。

父上である現社長もお歳を召してきたため、最近ではこの副社長がそろそろ社長に就任するのではと噂されている。

人望も厚く、私のような平社員を偶然見かければ、優しく声をかけてくれる家庭的な印象の社長。
そんな社長とは対照的に、壁を作り人を見下すような視線を向け、顎で人を使っている様な副社長は、どうも苦手なタイプだ。

できれば、あまり関わりたくない人物であり、接点を持ちたくない相手。
などと偉そうに言える程、平社員である私と副社長の間に関係性があるはずもなく。
副社長室と私の職場は階も違うし、仕事柄顔を合わせる人間も違うのは当然であり。

勤務中の社内で顔を合わすことなど、皆無なわけで。
よって普段から警戒する必要も無い相手なのだ。

そんな人が、目の前に居ることが夢を見ているような現状に気が緩み。
副社長に対し、夢と現実の区別がついていないような口答えをしてしまった。


「失礼ですね。違います、私は関係者です」

「なら、何故入らない?」


少しイラッとしたように、睨まれているのは気のせいじゃない。
今の私は、まるで蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまったからだ。