顔合わせの時間五分前。
二十四階に位置している第一会議室の扉を前に、さっきから棒立ちしている。
隣りには、一緒に職場を出てきた佳乃もいるというのに、緊張感からなかなかドアが開けられないでいた。
そんな私に痺れを切らせたのは、やはり佳乃で。


「ねぇ、いつまでこうしているつもり? 早く入らないと始まっちゃうわよ?」と急かされてしまったけれど。
初めて任された仕事に、今頃になって慌てているのだ。仕方ないじゃない。


「分かってるよ、入る。今、入るから」


そう言いつつも、ドアノブに手がかけられない。
やはり凡人だなぁ、と我ながら思う。


「何時までも出口を塞ぐな、邪魔だ。どけ」


躊躇していた私の背後から、とてつもなく恐ろしい声が向けられ。
出しかけていた手を、思わず引っ込めてしまう。


「あ、副社長」

「え?」


佳乃の声に反応し、振り返ると。グレーのスーツと紺色のネクタイが目に飛び込んだ。
見上げると、怪訝な表情で副社長が私を見降ろしていた。


「失礼しました」と佳乃と二人で左右に別れ、ドアへの道を作る。
そんな私に向かい、副社長が冷たく言った。


「中にいる人間に用があるなら、早く呼べ。会議が始まれば関係者以外立ち入り禁止だ」