君は君のままで

俊一の瞳を見れば、真剣だ。遠くにある的を捉えている。その弓を構えている俊一の姿は、誰がどう見ようととても美しいのだ。男である俊一に向かって、美しいという表現はおかしいかもしれない。

だが、それだけ、弓を構えている俊一の姿は魅力されやすいのだ。雫にとって、俊一は憧れの先輩である。そして、俊一は矢を放つ。その矢は、的の中心に刺さった。

俊一は、選手として選ばれている人材で、その実力はとても高い。賞もいくつか取っているということだ。矢が的の中心に刺さり、思わず雫は拍手をしてしまった。

雫の表情には、凄い！というばかりの喜びの笑顔だった。その様子を見た俊一は、ぶっ…と思わず笑ってしまい、彼女に向かって笑いを堪えながら言った。

「柊沢も練習始めろよ。見てるだけじゃあ、腕は上がんないぞ」

「あ、はいっ！始めます！」

雫は、俊一にそんな事を言われた為、慌てて自分の弓を持ってきて構える。遠くにある的に狙いを定める。ここだ、というばかりに矢を掴んでいた右手を放す。

ピュッ！と短いを音を立てて、矢が勢いよく的に向かって飛んで行く。雫が放った矢は、的の中心より少し左に刺さった。やはり、思うように真ん中には刺さらない。

うまく中心に刺さらなかったことに、雫の表情は少しばかり渋い顔を浮かべる。その表情を見ていた俊一は、ドンマイという事を言って雫を励ます。

その後、すぐに次々と弓道場に入ってくる部員達。本格的な朝練が始まるのだった。

朝練が終わったのは8時だった。また、それぞれ弓道に使った道具を片付け、制服に着替える。そして、急いで教室へと向かうのだった。

雫は、鞄を机の横に掛けて座る。彼女の机の場所は、丁度よく窓際で後ろの席だった。校庭を見れば、まだスポーツ系の野球部などは後片付けをしている最中だった。野球部とか大変そうだな…と彼女は思っていた。