「君は君のままでいいんだよ」

青空の下で、小さな男の子は微笑みながら言った。小さな女の子は、目を見開いてその男の子をじっと見つめることしかできない。

女の子の口は、自分の口ではないみたいで動かない。いや、動かせないのだ。男の子は、微笑んでいるっというのは分かる。だけど、顔がはっきりと見えない。女の子は、やっとの思いで口を動かし始める。

「あのーー」

女の子が声を出した瞬間、一気に白い世界に包まれた。男の子は微笑むばかりの姿だった。強い光の為、女の子は目を瞑ってしまった。

そして、ゆっくりと目が開く。目の前には、天井が写った。窓から太陽の光が差し込む。もう、朝だ。耳を済ませば、鳥の鳴き声が聞こえてくる。

ベッドから起き上がって、時計を見れば6時を指していた。いつも通りの時間だ。高校の制服を着替え、長い黒髪を櫛でとかす少女。彼女は、柊沢 雫(ひいらぎざわ しずく)。高校1年生。

季節は、そろそろ夏を向かえようとしているときだ。高校生活がだいぶ慣れ始めたところだった。

床に置いてある高校の鞄を取り、1階にあるリビングに向かうため、階段を下りる。その足音は、どこか楽しそうだった。リビングに入ると、そこには調理をしている雫の父親の姿があった。

「おはよ、ご飯、そろそろできるぞ」

父親は、リビングに入ってきた雫に向かって笑顔で挨拶をする。父親は、朝から目玉焼きを作っていたのだ。勿論、雫も笑顔で父親に答える。

「おはよう、お父さん!美味しそう!」

雫は、焼いている目玉焼きを見てそのように言い、持っていた鞄を床に置き椅子に座る。父親は、出来上がった目玉焼きをお皿に盛り付けテーブルに置く。

そして、2人揃っていただきます、と手を合わせて朝食を食べ始める。実は、雫の家族は、兄もいるが今は大学の合宿の為、家にはいない。肝心な母親は、雫が小さい頃に病気で亡くなっている。

雫は朝食を食べ終え、茶碗などを片付け歯磨きをし鞄を持って、父親に行ってきます!と元気よく言ってから家を出るのだ。