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「ふざけんじゃないわよ!」

「あはははははっ」


あたしは目の前で高らかに笑う憎たらしいクソガキを睨みつけた。


一度ならず二度までも、こんな奴に悲鳴を上げてしまった自分が悔しい。

未遂も含めると、通算三回。


ていうかあんなに血みどろの姿で来られると誰だって怖いでしょ!

でも、それをわかってしている悪戯なのだから、尚のこと質が悪いと思う。


ゲンコツでもお見舞いしてやろうかと思ったけど、どうせすり抜けるだけなんだと思い出して、しぶしぶ手を引っ込めた。


そこではっと気付く。


「ねえ、神代君は?」


何でまたあんただけが現れるのよ。

そう心の中で言いながら聞いた。


「あれ、春也って呼ぶんじゃねーの?」

「うるさいっ!まだ慣れないのよ!で、一緒じゃないの?」

「今頃ドアの前にいるんじゃね?ちなみに俺は壁とかすり抜けてきたし」

「ふ、不法侵入!」


あたしはそう言ってレイを指差しながら立ち上がり、そのまま玄関に向かう。


神代君、迎えに行かなくちゃ。

ていうかチャイム押してくれればいいのに……。


そう思いながらあたしは勢いよくドアを開けた。



ガチャッ

「ぶっ」



………ぶ?

あたしが顔をしかめてドアの外を見ると、神代君がうずくまっていた。


う、嘘!

まさかの顔面直撃!?


「だ、だだだ大丈夫!?」

「……いたい」


顔を上げた神代君の目は、あまりの痛みに耐えきれなかったのかうるうると涙が浮かんでいる。

その目とあたしの見開いた目がばっちりと合う。


きらきらきらきら……

ときめき指数、急上昇中。


こ、こんな人が彼氏だなんてあたしはなんて幸せなの!


さっきまでの怪奇現象への恐怖なんて、忘却の彼方へと一瞬ですっ飛んでいった。