「またね、有澄」

私達はパン屋さんを出て、駅の改札で別れる。

小振りに手を振るスーツ姿の有澄がカッコ可愛い感じで、いつまでも眺めていたい気分。

有澄は今、何の仕事をしているんだろう?

どこに向かうのだろう?

名残り惜しくなってしまうので後ろを振り返らず、ホームへ向かう。

日下部さんから"社長の息子"だと聞いたけれど、
本人が話してくれるまで信じて待つ───・・・・・・

「朝から何してるんだ?」

会社付近の駅に着き、コインロッカーにボストンバックをしまっていると日下部さんが通りかかり、嫌な場面を見られた!

「見たら分かるでしょ!コインロッカーに閉まってるんです」

小銭を投入し、鍵をかけながら話す。

「部長は何してるんです?早く会社に行ったら?」

こつん。

頭を軽く叩かれたが、時計が当たって少し痛かった。


「お前は超余裕そうだけど、もう9時過ぎてるからな。俺は一旦会社に行って、これから外出するから通りかかっただけだ」

9時過ぎてるの・・・!?

まだ大丈夫だと思ってた。

コインロッカー寄ったからだ、かと言って職場に大荷物は持って行けないし・・・。

「…全くどうしようもないな、お前は。浮ついてんじゃない」

「はいはい、すみませんでした。秋葉、会社向かいマース」

日下部さんの前から逃げる様に立ち去り、足早に会社に向かう。

去り際に大きなため息が聞こえた様な気がしたけれど、聞こえないふりをした。

歩いて向かう途中に少しずつ、お腹が痛くなってきた。

女の子の日が来た、と思われる。

有澄に話しておいて良かった。

会社に着いたら、とりあえずは鎮痛剤飲もう───・・・・・・