「思い出したっ!日下部さんさぁ、社内報に載った時はまだ新人でカフェに配属されてたよね…。初々しかったなぁ…」

「要らない事は思い出さなくていいから、サンプル品を会議室に運べ!」

「はぁい」

いつどんなタイミングと基準で社内報に載るのかは不明だが、その時その時で社長が気に入った人を載せているという噂もある。

まぁ私の場合は、来春のウェディング参入に向けてのデザイン関係で掲載されるとは思うけれど・・・。

「毎回思いますが、サンプル品を全部運ばなくても良くないですか?色違いとかは写真だけでも…」

サンプルの入ったダンボールを抱えて、会議室へと向かう。

「手に取って見ての個人個人の手触りや色合いの感じ方が違うから、決定会議では大変でも全部の現物を見て貰う。それが俺のモットーだから」

「…そのモットーに私は毎回参加なのですね。新入社員に運ばせたらいーのに!何で毎回毎回、私と日下部さんで運んでるんですか!」

「お前、最近、愚痴が多いぞ。……欲求不満か?」

いきなりの直球ストレートな質問に思わず、
「セクハラ反対!」と言い返し、会議室の机にドサッと置いた。

「セクハラって…いつ俺がそんな事をしたんだよ?」

ダンボールを置いた右手を掴まれ、目と目が合った。

「いつって…さっきの発言とエレベーターの件」

「…全くお前は…人の気も知らないでっ…。本当にセクハラしてやろうか…?」

「どうぞご勝手に!どうせ冗、だ、…」

冗談だと思い発言したのが不味かった。

不意打ちにも、耳たぶを甘噛みされたのだ。