何で香坂君が目の前に居るんだろう?

聞きたい事は沢山あるけれど、いざとなると言葉に詰まって何も聞けずにいた。

香坂君の顔を見たら、自然と涙が床に零れ落ちた。

「ゆかりちゃん、ちょっとこっちに来て!」
「………!?」

左腕を掴まれ、人気のない給湯室へと連れて来られた。

「…しばらく会わないって決めたのに、こんなところで会っちゃうとはね」

窓から入り込む街灯の明かりだけの中、香坂くんに抱きしめられている。

静まり返った給湯室で香坂君に聞こえてしまう位に私はドキドキしていた。

状況が理解出来ず、何も発さずにただ抱きしめられていた。

身動き出来ない位に強く抱きしめられ、私は香坂君の胸に顔を埋める。

「ゆかりちゃん、泣き止んだ?」

私は声を発さないまま、首を横に降った。

「曖昧な連絡しか出来なくてごめんね。来年の4月までは仕事の内容とかは言えないけど…。それに前よりも夜は遅いから平日は会えないと思う。

落ち着いたら土日は会えるから…。クリスマスはどこか行こうね」

「……連絡待っていてもいいの?」

「早く終わった日は必ず電話する。しばらく会えないけど…。落ち着くまで会わないって決めてたのに、決心が鈍りそう…」