「ほら、行くよ」って右手を差し出されて、左手を引っ張られる。

怪文書のお陰で私達の仲は公になったので、仕事帰りに堂々と手を繋いでも大丈夫なのかな?

「有澄…誰かに見られたら…」

「別にいいんじゃない?公認の仲だし。そんなんで副社長を解任されるんだったら、こっちから願い下げだよ。俺はゆかりを優先するよ」

さっき、綾美に王子だとからかわれた?せいだろうか?

日に日に有澄のキラキラ王子様オーラが増して見える。

有澄に翻弄されて、ゆでダコ状態な私はきっと酷い顔をしているに違いない。

「ゆかりの体調が大丈夫だったらだけど…ご飯食べて行く?」

「うん、何食べる?」

「駅前に新しく出来たイタリアンに行ってみよっか」

ちょっとお腹は痛いけれど鎮痛剤で何とかして、今日は有澄との時間を大切にしよう。

明日からは1人きり。

食事の後、自宅まで送って貰い、部屋の明かりをつけると急に寂しさが襲って来た。

荷物を取りに来るだけに化していた部屋は静まり返っていて、物悲しい。

冷蔵庫の中身も飲み物位しかなくて、生活感がまるでない。

ソファーに座ってテレビをつけて見ても、つまらない。

ダルいし、お腹痛いし、寂しいし。

早く終わって欲しい。

次の日、いつもより遅めに起きるとドアの外からガサガサと言う音がしたので、不審に思って開けてみると・・・ドアノブにコンビニの袋がかけられていた。

道路を見渡すと有澄の後ろ姿が見えたので、思わず叫んでしまう。

有澄は驚いた表情をして、私の元へと戻って来た。

「おはよ、ゆかり」

「どうしたの?朝早くから…。でも、パンありがと。何にも無かったから助かる!」

「そうかなって気になって来てみたけど、起こしたら悪いと思って袋にメモだけ入れといた」

玄関先に入るなり、朝からパジャマのままで抱きしめられているんですけど!?

夜の寂しい気持ちがどこかに吹き飛んでしまった。

有澄には叶わない───・・・・・・