「降ろして!」

「エレベーターに乗ったらね」

咄嗟の出来事に顔が真っ赤になっていて、耳まで熱い。

バタバタと抵抗して降りようとするが、可愛い顔していても力は男性だから思う様に振り解けない。

「ど、どこ行くの?」

「俺の部屋。今、相良も居ないから」

俺の部屋って、"副社長室"!

めちゃくちゃ職権濫用してる。

「職権濫用したら、また言われちゃう…」

「言わせない。もう誰にも、ゆかりを傷つけさせない」

「有澄にもメールが届いたの?」

「流石に副社長のパソコンのアドレスは知らないだろうから届かなかったけど、秘書課に届いた。相良は送り主を捜索中」

エレベーターに乗っても手を繋がれて、逃げ出す事は出来ない状況。

有澄、少しイライラしてる。

唇を軽く咬み、伏し目がちな目が何かを睨みつけている様な表情に見える。

副社長室の扉を開けると、ふわりと紅茶の匂いがした。

「ゆかり専用のアールグレイ、俺が入れてみた。ギリギリ5分、あと少しでヤバかったね」

ティーポットの脇には砂時計、ティーカップセット2つ。

サラサラと落ちていく5分計の砂時計は、椅子に座った時には砂が落ちきっていた。

お客様用のソファーに並んで座ると、有澄がカップに紅茶を注ぐ。

大好きなアールグレイの香りが広がり、隣には有澄もいるし、安心感で心が浄化していく。

ひと口、アールグレイを口に含むとポロポロと涙が溢れ出す。

「ごめんなさい…あり、とにも、くさか、べさんにも、迷惑かけ、ちゃ…う…」