眠り王子が完璧に目覚めたら




俺は、暗幕の外で太一を待った。
太一が中で話している事も、今の俺には全く聞こえない。

眠り王子??
そろそろ目覚める??
突然出会うから覚悟しとけ??

普段の俺ならこんなくだらないシチュエーションで起こった出来事なんて気にもならないのに、今回はその言葉が頭の中に嫌になるほど残っている。

満月の夜??
俺は狼人間か…?
いや、マジで俺は人間じゃないのかもしれない…

そんなあり得ない事を考えながら、思いっきり笑ってしまった。

くだらない…
裏通りの母の言う事を真に受けてどうするんだよ…

そう思っていると、太一が最高の笑顔で暗幕をくぐり抜けて帰って来た。


「城、帰るぞ」


俺はわざと大きくため息をついて、太一の後ろを歩いた。


「もう酔いは覚めたのか?」


外に出ると、律儀に待っていた陽介が真っ先に太一にそう聞いてきた。


「ああ、全然、大丈夫!
俺の結婚は、最高の選択だってさ」


単純な太一の最高の笑顔とは裏腹に、俺と陽介は顔を見合わせて苦笑いをする。


「じゃ、俺はもう帰るわ」


こんな新宿の裏通りで大の男の大人が三人でたむろしていれば、客引きが次から次へと寄って来る。
俺はそんな雰囲気に我慢できずに、残りの二人にそう言った。


「俺らも帰るからさ、城、怒んなよ」


太一は何かを言いたくてうずうずした顔でそう言うと、駅の方向へ歩き出した。