「あの、片桐君、ちょっとお願いがあるんだけど…」


俺は今までの人生で何を学んできたのだろうと、こんな些細な質問にどう対処していいのか分からない。

その小牧翼さんの履歴書を見せてくれないか?

本当は単刀直入にそう聞きたいけれど、そしたら、きっと何で?と聞かれるだろう。
何で?と聞かれたら、何と答えればいい?

今までこういうシチュエーションとは全く関係のないところで生きてきた俺は、翼の情報は目の前でぶら下がっているのに、こんな初期のそのまた初期の段階で戸惑っている。


「し、知り合いかもしれなくて…
あの、その、できれば履歴書の写真とかあれば…」


「あ、履歴書ね。
いいよ、城ちゃんの頼み事なんてめったにないからビックリしちゃったよ。

今から来る?
社長の決裁が下りて、今僕の机の上に置いてあるけど」


ここからの俺の行動は、この人事部長の片桐君でさえ呆れさせてしまった。
でも、片桐君は俺の事は何故か買ってくれていて、密かに出回っている俺の独立話をさりげなく聞いてきた。


「城ちゃんの独立の話、本当なの…?」


俺はまだ社長にすら自分の意思を示していないのに、ここで片桐君に話すつもりはない。


「まだ、何も決まってないよ…」



「もし、城ちゃんが独立するなら、俺も城ちゃんについていきたい。
人事部長なんて全く興味ないし、城ちゃんがいなくなったらこの会社、きっと傾くよ。
その小牧さんの件、俺が何とかするから。

空間デザイン室の室長事務ということで、社長に話しとくから心配しないで」