私は室長室のソファに座り、桜井さんからもらった資料に目を通していた。
何もする事がない私は、もうこの資料を5回以上は目を通している。

すると、室長はクローゼットから上着を取り出し、出掛ける準備を始めた。


「翼くん、君が何で東京本社に異動ができたかを、人事の人に教えてもらったんだ。
普通は、子会社から中々ここには来れないからさ。

あの関西にある小さな水族館の立て直しの成功は、君のアイディアからだったんだね…」


私は室長のこの言葉だけで、自分の頑張りを心から認めてくれたのが分かった。


「本社でもその話は持ちきりだった。
実は、俺、休みを使ってその水族館を見に行ったんだ。

あのプロジェクションマッピングの斬新なアイディアには、すごく感動した。
元々小さな水族館で水槽も小さくて魚たちも少ない中で、君のアイディアによって壮大の海の中で魚たちが意気揚々と泳いでいるそんな不思議な気分にさせられた。

大阪にも優秀な子がいるんだなって思ってたよ。
会えて嬉しい…
これからは俺の元で、最高にクールなデザインを企画してほしい」


私は泣きそうだった。
室長の感情のない語り具合が、耳からスッと胸に沁みこんでくる。


「室長、それで私をこの空間デザイン室に採用したんですか?」


室長の目がまた愛猫を見る目に変わる。


「それはまた別の理由。
俺は君の事は何でも知ってるから、側に置いておきたいって思っただけ。

あ、今から、出掛けるから、後はまた桜井さんの指示を受けて」



やっぱり、室長、怖いです…
私の何を知ってるんですか~~~?