翼は室長の細くなった目には見覚えがある。
この目は確実に焼きもちを焼いている目だ。


「この部屋がオープンになったからって、男と仲良く手を繋いでいいなんて言ってないぞ」


やっぱり、ビンゴだ。
あ~、可哀想な林くん…


「選考会に向けて一緒に頑張ろうって、握手をしてただけです。
どう見ても手なんか繋いでないですよ」


翼はそう言うと小さくため息をついた。
大人の室長と子供の室長の落差があり過ぎる。

きっと、今の私と室長の構図は、まるで私が室長に怒られているように見えるだろう。
だって、ガラス窓の向こうで桜井さんと林君と目が合うくらいだから。

室長はまだ翼の近くから離れない。


「室長、窓の向こうで皆が見てます。
きっと、皆、室長に怒られて小牧さん可哀想って思ってますよ」


翼がそう言うと、室長はチラッと外を見た。
そして、軽くため息をつく。


「いっそのこと、皆の前でキスしてやろうかな…
そしたら、怒ってるんじゃなくて愛してるからだって分かるだろ?」


翼はゾッとした。
今の室長ならやり兼ねない。


「そんな事したら、私、この会社辞めます!」


室長は今度は大きくため息をつき、天井を仰いだ。


「すぐそんな事を言って俺をいじめる…
よし、分かった。
じゃ、家に帰ったら俺が倍にして翼をいじめてやる。
後で泣いても知らないぞ」


そう言いながら室長の顔はにやけている。
また何かいやらしい事でも考えているような分かりやすい顔をして。