翼はその林という男性の勢いに押され、ただ頷くだけだった。


「もちろん、僕もこの企画に参加したくてシュミレーションで何度も自分なりに作品を作ったりしてて、でも、中々そんな機会はもらえなくて、そしたら急にこんなビッグチャンスが舞い込んできて本当に驚いてるんです。

桜井さんに聞いたら、きっと、小牧さんがそうするように仕向けてくれたはずだって聞いて、お礼を一言言いたくて…」


翼が桜井さんを見ると、穏やかに微笑んでいる。


「いや、違うんです…
これは、私が何を言ったとかじゃなくて、室長が決めた事なんです。

だから、お礼は室長に言って下さい。
私自身も驚いてるくらいなので…」


テンションの高い林君は、翼に握手を求めてきた。


「僕も小牧さんの水族館の作品は見ました。
素直に感動したし、シンプルだけどあの水族館への思いがひしひしと伝わってくる作品でした。

小牧さん、僕も小牧さんに負けないくらいの作品を作ります。
一緒に頑張りましょうね」


そう話をしていると、室長が室長室へ帰って来た。
林君はすぐに室長の元に歩み寄り、テンション高めにお礼を言っている。
でも、室長の愛想の悪い返しに、素直な林君は一気にテンションが落ち小さく縮こまってしまった。

多くを語らない無表情王子はまだ健在していた。


「用が終わったなら、さっさと仕事に戻れ」


冷酷非情な恐ろしい顔でそう言われると、林君も桜井さんも小さくお辞儀をして室長室から飛び出すように出て行った。