城は気丈に振舞う翼を見て、ますます落ち込んだ。
普段は翼の方が早くに家を出る。
俺は会社に入る前に駅前のカフェで仕事のチェックをするのが毎日の日課だった。
でも、今日は一緒に家を出た。
だから、いつもより早いんですねと言うわざとらしい言葉は滑稽だ。
でも、見た目と違い生真面目でそんなに器用ではない翼にとって、上司への挨拶はきっとこうなのだろう。
「なんか…
皆、ひどいな…」
城のその一言は、頑張っている翼の怒りを買ってしまった。
涙をいっぱいに溜めた瞳で俺を睨む翼は、小さな声でバカと言った。
「…そんな事思ってても口に出さないで下さい」
翼はそう言うと自分のデスクに座り小さくため息をついて、そしてまた立ち上がり城を見た。
「室長…
私、今日は、何をしたらいですか…?
デザインの仕事はもうやめたので、何もする事がないんですけど…」
城はもう頭がおかしくなりそうだった。
翼の哀しみがダイレクトに伝わってくる。
翼を直視する事さえ苦しい。
「選考会に出す出さないにしても、そのデザインは最後までちゃんとやり遂げること。
もう一回、選考の仕方を考えてみるよ。
やる気があって準備ができてる者には、門戸を広げる。
それが翼の意向に沿う事かは分からないけど、翼にえこひいきをしてるって思われてるのならそうじゃない事を証明しなきゃだろ?
そうじゃないんだから…
俺は、翼の作品を見てこの仕事に抜擢したんだ」
いつからこんなに泣き虫になったんだ?
翼はまた目に涙をいっぱいに浮かべている。



