眠り王子が完璧に目覚めたら




翼は自分のデスクに戻ると、誰もいない室長室に心が緩んでしまったのか、涙がポロポロこぼれ出した。

今日の午後は室長は会社には戻らない。
そして、そのまま帰宅するとさっきスマホに連絡があった。

翼は机に置いていたデザイン企画のファイルを引き出しにしまった。
そして、この止まらない涙の理由をもう一度頭の中で考える。

いつも理路整然と物事を考えて適当な事を嫌う自分の性格に、ほとほと嫌気がさしていた。
でも、そんな中でも、私の頭は桜井さんから聞いた話を何度もリピートする。

私が室長室に配属になった事自体、異例中の異例の出来事で、そして更にあの感情を持たないと言われている室長が私とつき合い出したという実状は、きっとこの会社始まって以来の大スクープだろう。

室長はそんな私に最高に名誉のある仕事の機会を与え、私は何も躊躇する事なくそのチャンスに飛びついた。
室長は私の関西での水族館の実績を見てだと言ったけれど、でも、よくよく考えればそれでもこのチャンスは恵まれている。

翼は浅はかな自分の考えにますます落ち込んだ。

あの小さな水族館のプロジェクションマッピングが私の案だとしても、でもそれを実現するまでには関西在住のベテランのプログラマーやスタッフが一緒に取り組んで作り上げたものであって、私一人の作品ではない。

九月にここに異動して、そしてその何日か後に最高に名誉ある仕事のチャンスをもらうなんて、普通に考えてそんな話はあり得ないしあってはならない。