翼はエレベーターではなく、階段を使って5階へ上り出した。
きっと俺のためを思ってそうしてくれたのだろう。
それか俺の居場所を自分でしっかり確かめておきたいか。
5階の踊り場に着くと、その真正面にエスカレーターがあり踊り場の隣が501号室だった。
翼は城の方を振り返り小さく頷いた。
そして、もう一度大きく深呼吸をして和成の部屋へと歩き出す。
心配し過ぎなのかそれとも緊張からなのか、城の心臓は口からせり上がってきそうな程ドクドク暴れている。
こんな感覚を今まで味わった事がないせいで、城は居ても立っても居られない。
あの新宿の裏通りのおばさんが言ったとおりだ。
確か、覚悟しときなさいと言っていた。
目覚めた感情を体感し、感情の操り人形となって、ほとほと疲れ果てる。
覚悟しててもこの有様だった。
でも、今は翼が無事に満足して帰って来れる事を願うだけだ。
ピンポン、ピンポン。
古くさいこのマンションは、チャイムの音も古くさかった。
城が目を離さずに翼の動きを観察していると、翼は奇妙な動きをしている。
チャイムを鳴らした後、ドアの下の方に屈んでしばらく待っている。
城はすぐにピンときた。
玄関の覗き穴から外を見た和成が、翼と知って居留守を使わないように翼は屈んで怪しい女の人になっている。
しばらく様子を見ていた翼だが、玄関ドアが開かないためもう一度チャイムを鳴らした。
ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン…
今度は続けて何回も…



