城は車から降りて歩き出す翼の五歩後ろをついて行った。
和成のマンションは幸いな事に、オートロック完備式ではなくそのまま個人の部屋へとつながる昔風の造りだった。
翼は正面玄関の前で何度も立ち止まり、その度に俺を見る。
俺は冷たいようだが、行け行けとジェスチャーで急かした。
翼は確かめるようにポストの名前を見ては、小さくため息をつく。
城はマンションの植え込みの陰から翼の動向を見守った。
翼は一歩進んでは二歩下がり、小さくため息をつき、城を見る。
城は何だかそんな翼が可哀想になってきた。
そして、また新しく湧いて出た感情に、戸惑っている自分がいる。
今夜、和成と会う事で翼はまた新しく心の傷を増やすのかもしれない。
初めて会った夜のように、涙に明け暮れお酒に入り浸る日々を過ごす事になるかもしれない。
和成に会いたいと言って決断したのは翼であって、でも翼が本当に考えて引き返すのならその時はその思いを俺は尊重してやろう。
はっきり言って、翼の切ない涙はもう見たくはない。
最初の出会いが強烈だったから。
ボロボロの精神状態の真っただ中の翼が、俺の第一印象でそれは根深く心の中に残っている。
そして、もう一つの心配要因は、もしそのクソ和成が、翼に罵声を浴びせたとしたら俺はどうなるか分からないという事。
ケンカのやり方とか何一つ知らないけれど、完全に切れてしまうのは確かだから。
和成より予測不能な自分自身が、何より一番の心配事だった。



