ホラー短編集


それから少し遅れて、あの同室の男が部屋に戻ってきた。



男は別段慌てる風でもなかったが、めいめいのベッドで眠っている同室の患者の顔を覗き込んで回っているようだった。



先に逃げていた男は、薄目をあけてその様子をうかがっていたが、追ってきた男が何をしているのか良く分からなかった。



ただ、何事かをつぶやいていることだけは分かった。



やがて、自分の所にもその男がやってきた。



他の者にしていたように、顔をこちらに近づけてくる。






そして…。






「一つ、二つ、三つ…。鼓動が早いな、見たのはお前だ!」






と男が耳元で囁いた。