4月。
昇降口の扉の窓にそれぞれ貼られた5枚の紙。
どの紙の前も人集りで、私たちはやっとの思いでそこから抜け出した。
「ニヤけすぎ」
呆れ顔で私を見つめる彼女は、篠田 梓(しのだ あずさ)。
小学生の頃からの私の親友。
「だって〜♡」
そう言って私はスマホで撮ったばかりの写真を見る。
“ 海崎 晴(かいざき はる)”
“ 百瀬 るい(ももせ るい)”
2年3組と書かれた紙には、大好きな人の名前と自分の名前。
うん、確かにある。見間違えじゃない。
今年も同じクラスだなんて・・・神様ありがとうっ!!
・・・・・・ん?
スマホの画面に視線を戻した時、1つの名前が目に留まった。
「はる・・・?」
「え?」
「いや、これ・・・」
私はスマホを梓にも見えるように向け、晴の名前のすぐ下にある名前を指さす。
“ 小坂 ハル(こさか はる)”
「あ。海崎と同じ名前」
「そうなの! 梓、どんな子か知ってる?」
「全然」
「そっか・・・」
ハルちゃん、か・・・
なんか名前からして可愛い子って感じだなぁ。
う〜ん、可愛い子はなるべく同じクラスにならないでほしいんだけど。
晴が好きになっちゃったら困るし。
これは要注意人物だな、うん。
「あ、海崎」
「えっ!? どこどこどこ!?」
「あそこ」
梓が指さす先には大好きな人の姿。
はぁ〜ん、今日も素敵!
晴の周りだけがキラキラして見えるよ〜。
寝癖ついてるけど、そこがまた母性本能をくすぐるというか・・・
とにかく世界で1番かっこよくて可愛くて最高なんです!!
「晴〜〜!!」
晴に向かって大きく手を振ると、少し照れた顔で遠慮がちに手を挙げる。
私はそんな晴の元へ駆け寄った。
「おはよ! 遅かったね。寝坊?」
「いや、迷子の子を交番まで届けてた」
ズキュンッ♡♡♡
うっ・・・胸にピンクの矢が・・・
朝からハート射抜かれた・・・
「そうだったんだ。あ、今年も同じクラスだったよ!」
「え〜。また〜?」
「なによぉ! 嫌なわけ?」
「だって、小3からずっと一緒じゃん」
そう、今年で私と晴の同クラ記録は9年目になるのだ。
そして・・・私の片思いも今年で9年目。
今年こそ絶対に晴の彼女になってやるんだから!!
「クラス表の写真撮ったけどいる?」
「ん〜、自分で見てくるからいいや」
「そっか・・・」
「おう。じゃ、また後で」
「うん・・・」
そう言うと晴は昇降口の方へ行ってしまった。
「はぁ・・・」
なんか晴って昔から私に対して素っ気ないし扱いが雑な気がするんだよね。
他の女の子には優しいのに・・・
やっぱり女として見られてないってことなのかな。
でも、それって・・・
「髪サラサラ〜♡」
・・・っ!?
いきなり後ろから髪を触られ、ビックリして勢いよく振り向く。
そこには、明るいピンクブラウンの髪色が特徴的な長身の男が立っていた。
「なっ・・・んですか!?」
「あ〜、セクハラじゃないよ? 」
「・・・?」
「桜の花びら」
そう言ってピンク頭の男は桜の花びらを人差し指と親指でつまんで私の目の前に差し出す。
私の目線に合わせて少し屈んだ男の顔は、よく見るととても整った顔をしていた。
「はい、どうぞ♡」
「あ・・・どうも・・・」
差し出された桜の花びらを思わず受け取ってしまう。
てか、こんなの渡されても困るし。
いちいち渡さなくても普通に捨てれば・・・
「可愛いね」
・・・は・・・?
「じゃあ、またね♡」
呆気に取られていた私が我に返った時には、すでにその男は背中を向け歩き出していて。
私は風に揺れる柔らかなピンクブラウンの髪を見つめることしかできなかった。