確かに生活感の残る部屋は幾つかあったが、これはまるで住人が日常の中で忽然と消え去ったかのようだった。

ついさっきまで、誰かがいたような。 

有名な幽霊船の逸話が脳裏に蘇った。

事実、四つの椅子が並ぶテーブルには箸や茶碗などが並んで埃を被っていた。

今まで気にならなかった静寂がやけに耳をつく。

緊張したまま奥の部屋を覗くと、雑誌やレコードが散乱する中に古ぼけた小振りのテレビが鎮座していた。

小さな四つ足の台に載ったテレビは、ダイヤルつきのその頃でもまず見かけなくなっていたタイプだった。

全体を覆う赤いプラスチックが妙な懐かしさを感じさせる。高度経済成長センス、というか昭和テイスト。