「なんでここまでしてくれんの?」


「……えっ?」


「まだ……俺のこと、好きなのかって期待しちゃうんだけど」


本当に伝えたい言葉はこんなんじゃないのに。

いざ日菜琉を目の前にしたら、こんな軽薄そうな言葉しか出てこない。


そんな俺の言葉を聞くなり、心配そうに俺を窺っていた日菜琉の表情は一気に曇り始めてしまった。


そして、


「……なんでそんなこと言うの? わたしのこと嫌いなのに……」


みるみるうちに涙が溜まっていった瞳で俺を見据えて、悲しげな声で小さく呟いた。


「違うっ。俺は、おまえが好きだ……」


「じゃあ……今度は何ヶ月付き合ってくれるの?」


「えっ……」


やっと気付いた自分の本当の気持ちを伝えれば、日菜琉は感情を消した淡々とした口調でこう切り返してきた。


予想外の反応に呆然としてしまう。


そして嫌でも思い知らされるのは……自分が如何に日菜琉に対してひどいことをしてきたのかってこと。



日菜琉の顔がまた悲しそうに歪められて、言われた言葉で俺の思考回路はどんどんと鈍っていく。


「……初めてだったんだよ。こんなに好きになったの……」


目の前で泣いてる日菜琉をただ見つめるしか出来ない無力な自分。


どんなに日菜琉への想いを自覚したところで、やっぱり俺にはもう日菜琉を泣き顔にすることしか出来ないのか……。


「一ヶ月の間、わたしが彼女で恥ずかしかったでしょ?」


「…………」


悔しいけど日菜琉の言葉を否定出来なかった。


靴箱に弁当入れさせたり、門の外で待ち合わせしたり……。


日菜琉が隣に立つのが恥ずかしいって思ってたのは紛れもない事実だから。


今は違うって否定したかったけど、そんな言葉をどんなに俺が言ったって……きっと伝わらない。


日菜琉と並ぶのが恥ずかしいって思った過去の自分に腹が立った。