そして、


「好きだよ……」


絞り出すような弱く切ない声で囁かれた言葉は予想もしていなかったような言葉で……。


「もう少しだけ……一緒にいたかったな……」


ギュッと俺の腕を握り締めていた手に、にわかに力が込められた。


切なく苦しそうな声が耳元に焼き付いて、思わず日菜琉の顔を見れば、


「あっ……ははは。こんなこと言ったら困っちゃうよね」


我に返ったように日菜琉が俺から身を離し、困ったような笑いで感情をかき消してしまう。


さっきの日菜琉の行動も言葉も、俺の頭の中を真っ白に染めていく。



……なんでこんなときにも笑ってるんだ。

見てる方が辛くなるんだけど……。



ただ呆然と目の前で笑う日菜琉を見つめることしか出来ない。


「ホント……ごめんね?」


困った笑顔が小さく呟いた瞬間、日菜琉の瞳から大粒の涙が零れ落ちてしまった。


何があっても一度だって俺の前では泣いたことの無い日菜琉が、今俺の前で泣いている……。


もしかしたら今までずっと、こうして泣きたかったのを我慢してたのかもしれない。



「日菜琉……」


とっさに伸ばそうとした俺の手は、日菜琉には届かず虚しく落ちた。


日菜琉が身を縮めて、俺の手を拒んだからだ。



「……元に戻るだけだよ。有宮くん」



涙の溢れる瞳で無理矢理に笑い、こう呟いた日菜琉が走り去っていく。


俺はただ黙ってその背中を見送るしか出来なかった。




いつもそうだった。


ごめん……なんて俺のセリフだろ。



優しくしてやれなくて、ごめん。

目の前で裏切って、ごめん。

たくさん傷付けて、ごめん。

気持ちを踏みにじって、ごめん。

ずっと無理矢理笑わせて、ごめん。


言っても言っても言い足りない、「ごめん」を俺は何度も頭の中で呟き続けた。




こうして俺たちの一ヶ月は幕を閉じたのだった。