「……とうとうフラれたか」


ある日の昼休み。


いつもの如く紘也と昼飯を食べようとしようにも、俺は弁当を広げることも食べることも出来ないでいる。


というのも、何故だかいつも入ってるはずの弁当箱が今日は俺の靴箱に入ってなかったからだ。


ガランとした俺の机の上を一瞥しながらポツリと呟いた紘也の言葉に、弁当が入ってなかった理由がわからない俺はさすがに返す言葉が見つからなかった。


もしかして……この前のカラオケのことを時間差で怒ってるアピールしてきた……とか?


だとしたらこの俺に一言、ごめんって言えってことか?


もしそうなら……なんてめんどくさい女だ。



「有宮くん」


何の前触れもなく弁当のお預け食らい、軽く苛ついてた俺を不意に見知らぬ女子が呼んだ。


見たことない顔だから多分、クラスのヤツじゃない。


顔立ちは悪くない。
可愛い系じゃなく、綺麗系の……大人っぽい感じ。
気の強そうなつり目が印象的だ。



「……日菜から預かったの」


そう言って彼女は無愛想な無表情と吐き捨てるような口調で、見覚えのある弁当袋を差し出してきた。


日菜?

どうやら、この気の強そうな女は日菜琉の友達みたいだ。



「じゃあ、ちゃんと渡したから」


そいつはそれだけ言うと、俺らの前からさっさと去っていってしまった。


去り際にチラッとこっちを睨み付けるように一瞥した顔が、まるで怒ってるようにピリッとした空気をまとっていた。


いつも呑気な顔でヘラヘラ笑ってる日菜琉とはまるで正反対だ。



「で……水原さん本人はどうしたの?」



本人でなく日菜琉の友達が弁当を持ってきたことが気にかかるらしく、紘也が怪訝そうに俺に尋ねてくる。



そんなの知ってたら弁当が無くて苛立ったりしていないし。



それに俺としては、こうして日菜琉から弁当が届きさえすればそれでいい。


「さぁ?」


だから日菜琉が来なかった理由なんて知るワケもなく、俺は紘也に他人事のようにこう答えて弁当を食べ始めた。