わたしの携帯を受け取るなり、彼はポチポチと何やら慣れた手つきで打ち込み始める。
わたしはそれをただただ不安な気持ちで見つめるばかりだった。
「おまえ、名前は?」
「……水原 日菜琉」
名前も知らないのに付き合ってって言ってきたんだ……この人。
何を考えてるのかサッパリわからない……。
不安が秒単位で膨らんでいくのを感じる。
「俺は有宮 善雅な。クラスは?」
……知ってるよ、2組の有宮くん。
カッコいいって有名だもん。
こんな凡人のわたしが知ってるくらい……。
「……2の5」
「タメかよ。俺2組な」
あぁ……同い年ってことすら知らなかったんだね。
なのになんで付き合ってなんて言ってきたんだろ……。
わたしの不安はますます膨らんでいく一方だ。
「じゃあ、詳しくはメールするから」
一方的にこう告げて、有宮くんはわたしに携帯を返してきた。
「あのっ!」
なんでわたしと付き合って欲しいの?
そう続けようとした言葉は、間髪入れずに言われた有宮くんの声に遮られる。
「……遅れるんじゃない?」
「えっ? あっ!」
ここでわたしは当初の目的を思い出した。
文化祭のこと、有宮くんからの突然の告白もどきですっかり忘れてしまっていた……。
再び慌てて門に手を掛けたわたしの体が、急にふわりと浮かんだ。
「ほらっ」
「わぁっ!!」
何が起きているのかわからず。
わたわたと有宮くんの方を見てる間に、そのまま腰元から抱き上げられてしまう。
男の子とこんなに密着したことなんてなかったわたしの胸が、壊れたみたいに一気に高鳴り始めた。
恥ずかしいのとびっくりしたので、頬がどんどん真っ赤になっていくのがわかった。

