私はそんな彼の懇願を無視して話を続けた。


「あーあ、もう嫌だわ、食に関わる人間が、食材の変化に気づかないで死ぬなんて。
自業自得よね。」

力が抜け、意識が遠のいていく感覚がある、もう長くは無いだろう。

「なんで!?
だからさあ!!」

この間にも自分は自分の服をどんどんと赤く染め上げる。

「もう、最後まで、君と喋らせてよね。」

私は「ほんとに最後のお願いよ。」と小さく付け加えた。

もう、視界にはほとんど何も写っていない。

自分の体に、ほんのりとした暖かさと、自分とはべつの甘い香りを感じ…た気がした。

「また、来世で、会いましょう?」

香りが強まった、ように思った。
最後をこの香りに包まれて終えることが出来て、幸せだなぁ。

願うなら。
来世でも、この香りのそばにいたい。




意識が、ふっ、と途切れた気がした。