腕に絡みつく鋼線を、ダンドリッジは解けぬままに歯噛みした。

もう左腕が切断されて落ちそうだ。

これ以上動けば、胴体とさようならという事になりかねない。

ダンドリッジは、目の前の優男を無言のままで睨んだ。

…長い黒髪を後ろで束ねた、英国紳士風の眼鏡の男。

革手袋を付けた手で操るのは、鋭利に研ぎ澄まされた鋼の糸…鋼線だった。

「無闇に動き回るのをやめただけ、君は知能があるようだな、蝙蝠」

キリキリと音を立てて鋼線を引きながら、優男は言う。

「だが立ち止まったとて同じ事だ。その位置から拳銃も撃てないまま、君は敗北する…見えるだろう?」

優男の指摘通り、ダンドリッジの周囲には、蜘蛛の巣のように鋼線が張り巡らされていた。

迂闊にその蜘蛛の巣に入り込んでしまった無関係の選手達も、鋭利な鋼線によって傷を負ってしまう。

「この巣は何人たりとも出られないし、入れないのだよ」

優男は、眼鏡を中指で押し上げた。