「御免下さい」

沖田は声を上げる。

返事がなかったのでもう一度。

「御免下さい」

「おーう、ちっと待ってくれ」

奥の方から声がして、ドスドスと足音が聞こえる。

出てきたのは、筋肉質だが小柄の男だった。

「お、何だ沖田じゃねぇか」

そう言って、夕城邸に住む嘗ての一味頭領・橘 龍一郎はニカッと笑った。

「どしたい、真太郎の旦那に用事か?」

「ええ、まぁ…御在宅ですか?」

「ああ、ちょいと待ってな」

夕城邸の主を呼びに行こうとする龍一郎に。

『また刀をせびりに来たのか、異邦の侍』

彼の内から、禿鷲が嫌味を言う。

「うるせぇぞハゲ、憎まれ口叩くんじゃねぇ」

『憎まれ口ではない、事実だ』

「真太郎が沖田に融通してやるって言ったんだ、せびってる訳じゃねぇだろうが」

まるで独り言を言っているかのように、奥へと戻っていく龍一郎。

何でも彼の身の内には、『臥龍』というもうひとつの人格がいるのだという。

ベルの父、橘 龍一郎。

沖田にとっては、不思議な存在だ。