道行く浴衣姿の親子連れと擦れ違いながら、ベルは今日も廃墟と化した館へ向かう。

今日は彼女も浴衣姿だ。

紺色の、おとなしめな浴衣だが、彼女にはよく似合っていた。

母のすずがこの日の為に仕立ててくれた、特別な浴衣だ。

カラコロと下駄の音をさせて。

「ダン」

彼女は、己が従者の館へと足を踏み入れる。

「マスターか」

真夏の纏わりつくような暑さだというのに、ダンドリッジは今日もぬくぬくとインバネスコートを羽織り、館の一室、豪奢な装飾の施された椅子にふんぞり返っていた。

一言で言って偉そうな態度だ。

「なぁに、ダン。態度悪い」

「当然だろう」

ダンドリッジは足を組む。

「天神学園で魔王と恐れられた祖父殿に勝った男だぞ、俺は。それなりの威厳ある態度を取らねば、負けた祖父殿の面子に関わるというものだろう」