「じゃあ、すぐにチャチャッと行ってくるよ」

玄関で靴も脱がず、すぐにタッパーを受け取るベル。

ダンドリッジが塒にしている朽ち果てた洋館に、ひとっ走りしようとして。

「行くこたねぇよ、ベル」

1人の男が、ベルを呼び止めた。

小柄だが、筋肉質の体躯を持つ壮年の男。

ベルの父親、橘 龍一郎だ。

「今、ダンの奴ぁ傍に居んのかよ?」

「え?…ダン…?」

龍一郎に言われ、ベルは振り返って呼びかけてみる。

姿は見えずとも、ダンドリッジはその肉体を透過させて、マスターたるベルの傍らにいるのが通例なのだが。

「禿鷲の奴が、ダンがベルのそばから離れてるって言っててな…じゃあどこ行ったんだって訊ねても、くつくつ笑うばっかでハッキリしねえからよ、あのハゲ野郎」

『誰がハゲだ龍一郎』

「てめぇだ、てめぇ」

いつものように龍一郎と禿鷲は、コントのような低レベルの言い争いを繰り広げている。