「悦に浸ってんじゃないわよ、ダン」

背の高いダンドリッジの後頭部を、背伸びしてペシン、と。

1人の少女が叩いた。

セミロングの金髪、ブレザー制服は天神学園規定のものだ。

「そんな厨二病な台詞を恥ずかしげもなく吐くから、アンタは橘家に養子に出されるのよ。みっともなくて名門ツェペリ家を名乗らせられないって」

「何が恥ずかしい。鴉丸 禿鷲(からすま とくしゅう)と共存なんぞしている貴様の父の方が余程恥ずかしいわ」

「時代遅れね、ダン。人間は魔と敵対するもの…そんな考え方、この天神地区じゃ何十年も前に廃れているのよ」

天神学園で魔王の如く恐れられている学園長、ヴラド・ツェペリの血族を捕まえて、ここまでの暴言を吐ける者も少ない。

彼女の名は橘 ベル(たちばな ベル)。

勉強が得意ではないのは丹下の血筋だが、これまた受け継いだ強い正義感、そして『災厄の箱から生まれた子』と呼ばれる母から、悪魔の血も受け継いでいた。

ベルという名は、その母が命名したものだ。