ーside陽向ー



俺は、彼女と出会ったあの日を今でも忘れない。




忘れてはいけない。






救急で運ばれてきた少女は、まるで人形のようだった。






質問の問いかけにも、反応せず終始無表情だった。







でも、そんな表情をしていても1つだけ読み取れることがあった。





それは、君の悲しい瞳だった。






『佐伯汐帆(さえき しほ)』






「汐帆ちゃん、手の治療だけさせてもらっていいかな?」







血だらけの少女の手を、俺はタオルで止血してから、包帯で巻いた。







傷口は、思ったよりも深くて大量出血をしていた。







そのせいで、少女の状態は良くなかった。






「秋元さん(看護師)、今日はもう上がっていいよ。



汐帆ちゃんは、俺が病室まで送っていく。」







汐帆ちゃんは、ここで安心して入院ができるのだろうか。







とりあえず、個室に汐帆ちゃんを誘導した。








車椅子から、降りてからゆっくりとベッドに横になった。








それにしても…。






どうして、この子の親は来ないのだろうか。







そもそも、どうして警察官と一緒に来たのだろうか。







「汐帆ちゃん、何かあったらすぐにここを押して教えてね。」






俺は、ナースコールを彼女の隣に置いて分かるように説明をした。







汐帆ちゃんは、それを見ることなく俺に背を向けた。







「じゃあ、おやすみ汐帆ちゃん。」







そう汐帆ちゃんに言ってから、部屋の電気を消した。