「井上くんってほんとに華のこと好きだよね」


「昔のことだよ」

「今も好きじゃなかったらそんなこと言わないよ」


あたしはひとみに、裏庭で井上くんとサボった時のことを話した。

ひとみは、華は井上くんには興味ないの?と聞いて来る。


ーーーーあたしが好きなのは、先生だよ


心の中で叫んでも、言葉には出せない。


「あれ?中村先生と松本先生じゃない?」

ひとみの視線の先を目で追うと、


ほんとに先生と松本先生がふたりで歩いてた。


松本先生は4組の担任の先生で、
あたしが1年の時に裏庭でサボってたのを見つけられたけど、怒らずに1時間話し相手になってくれた。

綺麗で、大人で、背が高くて、モデルみたいな先生。


「あらひとみと華ちゃん、なにしてんの?」

「松本先生!梨花の部活待ってるの」


ひとみが明るく返す隣で、あたしは黙って先生たちの方を見た。


先生は気まずそうにあたしから目を逸らした。


「先生たち一緒に帰るの?」

「先生たちは今から大人の飲み会なの。


じゃあね、気をつけて帰って」



「さよならー!」

ひとみが元気に挨拶する隣りで、あたしはずっと黙ったままいろんなことを考えた。


先生は今日は帰って来ないの?

松本先生と一緒にご飯食べるの?

あたしにはなにも言ってくれないの?



「あ、中村先生!」


ひとみが思い出したように先生に向かって言った。


「梨花が反省してたよ」



「おう、気をつけて帰れよ」


先生は最後まであたしの目を見ずに、


松本先生と仲良さそうに帰って行ったーーーー。