私の唇に触れていた部長の唇が離れた。

「――へえ、結構いい顔するんだね」

部長はそう言って、妖しげに笑いかけてきた。

私はどんな顔で彼のことを見つめていると言うのだろうか?

「南くん」

私の名前を呼んできた部長に、
「――ジョ…ジョーダンはやめてください」

そう言った私の声が震えていたのは、自分でもよくわかった。

「私は、あなたの彼女になりません。

失礼します」

部長に会釈をするように頭を下げた後、その場から逃げ出した。

オフィスを後にしてエレベーターに駆け込むと、ドッと疲れが一気にやってきた。

「――な、何だったんだ…」

部長とキスしたのは、本当だったのね…。

唇に残っている感触とぬくもりは、嫌でもその状況になってしまったんだと言うことを思い知らされた。