「でも仕事で遠距離とかってあるんじゃないですか?」

「例えあったとしてもトンボ帰りしないと商売にならないずら」

「あ・・・、そっか、そうですよね」

「お客さんだってあの別荘地にいるってことは長野県民じゃないんでしょ」

「ああ、私は秋田から来てますから」

「へ~、秋田からわざわざ。そんでまた松本から行き先の決まってない気ままな旅ですか?うらやましいずら」

イヤミっぽくなく、本気で羨ましがる運転手の口調が可愛らしかった。

私は運転手に聞いてみることにした。どうせ何も手がかりもないまま過ごして、挙げ句何も得られないままでいるよりは他人の口を借りて行き先を決めるのも悪くないと思った。