1時間後、まだ暗く冷え切った空気がコテージを包んでいた。
暗闇にひっそりとたたずむコテージが寂しく見えた。彼が一人で眠っている。彼が起きた時の驚きと心情を想像できるから心が痛かった。しかしそんな想いにむち打ってコテージを背にした。

しばらく暗い道を歩いた。コテージが見えなくなったところでタクシー会社に電話をした。

松本電鉄上高地線、商店街も何もない新島々駅。野麦街道をはさんですぐそこに梓川が流れる。駅から少し離れたコンビにでタクシーをおりた。山の稜線に朝の気配を見ながら、煌々と照らす店の灯りになんとなくほっとした。店内におでんの匂いが広がっていて暖かかった。

「俺は糸こんにゃくがいいな」

ひろし君の声が聞こえたような気がした。

なんとなく暖かい気持ちで微笑むことができた。