いつもと同じ帰り道。
私はマフラーを首にグルグル巻いて、寒さをしのいでいた。
去年は体重減少に伴って余分な脂肪も落ちて一段と寒さが身に応えていたが、今年は隣りを歩く人がいるから不思議と寒さは感じない。
時に、私の右手は遥奏のブレザーの左ポケットの中で彼の体温を奪う。
遥奏はくすぐったそうに、たまに私に愛らしい笑顔を見せてくる。
私もそれに負けないくらい笑う。
でも多分、負けていると思う。
だって彼にはキラキラとしたオーラがあるから。
アイドルが金色のスパンコールがたくさんあしらわれた衣装を着ているみたいな雰囲気を醸し出してしまっているから。
地味な私は専ら彼の引き立て役だ。
「今年はいくつもらえるかなぁ…」
「へ?」
「何でも無い」
遥奏はそう言うと前に向き直って、魅惑の微笑みを浮かべていた。
チョコの話か…
私の記憶上、男子はチョコの数をやたらと気にする生き物だ。
どんなに普段真面目で大人しい男子でも、女子からの評価は大事らしい。
小学生の時、クラス1読書家で冷静で大人びている男子が、自分の机やロッカー、さらには下駄箱を漁っているのを見た時には鳥肌が立った。
少しだけ、恐怖さえも感じた。
今年の2月14日は月曜日に当たっている。
男たちの熱き戦いは学校で繰り広げられるだろう。
私はもちろん、遥奏にだけあげるつもりだ。
宙太くんにあげると調子に乗りそうだし、彼もそこそこ人気だから、なんだかんだ言って二桁は普通にもらえるだろうから、勘弁させてもらう。
おそらく初めての本命チョコ作り。
次のバイトの時、日向さんに作り方を教えてもらおう。
遥奏は何が良いのだろう。
生チョコかな。
いや、ガトーショコラとか。
いやいや、トリュフ?
いやいやいや、チョコじゃなくてクッキーの方が良かったりして…
私の頭の中がチョコだらけになり始めたところで駅が見えて来た。
遥奏とは家が逆方向なので、ここでお別れだ。
そう思うと急激に胸がキュッと締め付けられた。
私はしぶしぶ右手をポケットから出し、手のひらを彼に向ける。
「じゃあね。バイバイ」
「また明日。気をつけて帰りなよ」
遥奏が背を向け、遠ざかる。
一瞬、その背中を追いかけたいと思った。
後ろから抱き締めたいと思った。
でも、私の理性がブレーキをかけた。
私は彼に背を向け、歩き出す。
「チ、ョ、コ、レ、イ、ト」
「最初はグー。じゃんけん…」
「うわっ…また負けた…」
「晴香弱いねぇ。じゃあ進むよ。
…チ、ョ、コ、レ、イ、ト」
誰?
誰なの?
私…
知ってる…?
突然頭が割れそうなくらいにズキズキと痛んでその場にしゃがみ込んだ。
周りの音が聞こえなくなる。
自分の心臓の音だけがはっきりと聞こえていた。
ドク、ドク、ドク…
「君、大丈夫かい?」
帰宅途中のサラリーマンが声をかけてくれるが、私は答えることが出来ない。
頭が痛すぎて、声帯につながっているはずの神経がシグナルを受信しない。
シナプスが機能停止していた。
私…
私…
どうにかなっちゃいそう…
誰か…
誰か…
助けて…
気がついた時には見慣れた薄汚い天井を見つめていた。
私はマフラーを首にグルグル巻いて、寒さをしのいでいた。
去年は体重減少に伴って余分な脂肪も落ちて一段と寒さが身に応えていたが、今年は隣りを歩く人がいるから不思議と寒さは感じない。
時に、私の右手は遥奏のブレザーの左ポケットの中で彼の体温を奪う。
遥奏はくすぐったそうに、たまに私に愛らしい笑顔を見せてくる。
私もそれに負けないくらい笑う。
でも多分、負けていると思う。
だって彼にはキラキラとしたオーラがあるから。
アイドルが金色のスパンコールがたくさんあしらわれた衣装を着ているみたいな雰囲気を醸し出してしまっているから。
地味な私は専ら彼の引き立て役だ。
「今年はいくつもらえるかなぁ…」
「へ?」
「何でも無い」
遥奏はそう言うと前に向き直って、魅惑の微笑みを浮かべていた。
チョコの話か…
私の記憶上、男子はチョコの数をやたらと気にする生き物だ。
どんなに普段真面目で大人しい男子でも、女子からの評価は大事らしい。
小学生の時、クラス1読書家で冷静で大人びている男子が、自分の机やロッカー、さらには下駄箱を漁っているのを見た時には鳥肌が立った。
少しだけ、恐怖さえも感じた。
今年の2月14日は月曜日に当たっている。
男たちの熱き戦いは学校で繰り広げられるだろう。
私はもちろん、遥奏にだけあげるつもりだ。
宙太くんにあげると調子に乗りそうだし、彼もそこそこ人気だから、なんだかんだ言って二桁は普通にもらえるだろうから、勘弁させてもらう。
おそらく初めての本命チョコ作り。
次のバイトの時、日向さんに作り方を教えてもらおう。
遥奏は何が良いのだろう。
生チョコかな。
いや、ガトーショコラとか。
いやいや、トリュフ?
いやいやいや、チョコじゃなくてクッキーの方が良かったりして…
私の頭の中がチョコだらけになり始めたところで駅が見えて来た。
遥奏とは家が逆方向なので、ここでお別れだ。
そう思うと急激に胸がキュッと締め付けられた。
私はしぶしぶ右手をポケットから出し、手のひらを彼に向ける。
「じゃあね。バイバイ」
「また明日。気をつけて帰りなよ」
遥奏が背を向け、遠ざかる。
一瞬、その背中を追いかけたいと思った。
後ろから抱き締めたいと思った。
でも、私の理性がブレーキをかけた。
私は彼に背を向け、歩き出す。
「チ、ョ、コ、レ、イ、ト」
「最初はグー。じゃんけん…」
「うわっ…また負けた…」
「晴香弱いねぇ。じゃあ進むよ。
…チ、ョ、コ、レ、イ、ト」
誰?
誰なの?
私…
知ってる…?
突然頭が割れそうなくらいにズキズキと痛んでその場にしゃがみ込んだ。
周りの音が聞こえなくなる。
自分の心臓の音だけがはっきりと聞こえていた。
ドク、ドク、ドク…
「君、大丈夫かい?」
帰宅途中のサラリーマンが声をかけてくれるが、私は答えることが出来ない。
頭が痛すぎて、声帯につながっているはずの神経がシグナルを受信しない。
シナプスが機能停止していた。
私…
私…
どうにかなっちゃいそう…
誰か…
誰か…
助けて…
気がついた時には見慣れた薄汚い天井を見つめていた。



