―――――蒼井さん…オレのものにしていい?







彼はそう聞いた。


私は、もはや何も出来なくて、呼吸だけをしていた。

そうしたら、私と彼の間の距離が徐々に縮まって、触れ合おうとしていた。




だけど、その時音が聞こえたんだ。

たぶん木と木がこすれる音だったと思う。


遥奏くんが急に遠ざかって、私は手を下ろした。

彼の手を借り、砂浜から体を起こして辺りを見渡しても、人は見当たらなかった。

ウミネコが流れ着いた流木の上で身を休めているだけだった。



誰かが見ていた。



忘れられないあの夜の出来事は2人だけの秘密のはずが、きっと誰かと共有してしまっている。



私の記憶が不鮮明だったのは、遥奏くんとの距離が急に縮まったことへの興奮のせいだけじゃなく、きっとその謎の人物に対して複雑に混ざり合った様々な感情を抱いていたからだろう。








そして私は今日も不思議なことに再び遭遇してしまった。