はあはあ…



大きく肩を上下させ、呼吸を整えようと酸素をいっぱい吸い込み吐き出す。

額に髪の毛がべったりと張り付いて、せっかくセットしてきた髪型も台無しになってしまった。

しかし、そんなことを一切花火は忘れさせてくれた。


「わあ…!キレイ!」

「だろ?ここ、オレが小学1年の時にじいちゃんと離れて迷子になってさまよい歩いてたら偶然見つけた超穴場スポットなんだ」


遥奏くんが得意げにそう話した。


「ありがとう、教えてくれて」

「どういたしまして」


2人で笑いあう。

周りには誰もいなかった。






ヒューーー…ドン!!



ヒューーーーーーーー…ドドン、ドン!!

  



星が喜んでいた。

夜空はいつもの何十倍、何百倍、何千倍もの輝きに満ち溢れていた。


打上がって消えては、また打上がる花火。


笑っていたり、ハートだったり、星だったり、土星だったり、とにかく様々な表情で人々を一人残らず楽しませてしまう。

花火の魔法は今日も効き目抜群だ。


それにしても、花火はなぜこんなにも人を惹きつけるのだろうか。


化学反応を上手く利用した、真夏の夜空に咲き誇る花たち…


それらは人間の喜怒哀楽を表現しているからこそ、親近感が湧いて、自然と目を奪われてしまうのだと私は勝手に解釈している。


花火師達が届けるメッセージをこの雄大な夜空のキャンバスを通して私達観客は受信するんだ。 







ヒューーーーーーードドン…


ヒューーーードドン、ドン…


ヒューーーードドン…パチパチパチパチ…








下の方で、激しく、いくつもの小さな花火が咲き誇る。
道端やビルとビルの間に寂しそうに、でも強く生きている花のような普段太陽に照らされない花が一生懸命輝こうとしていた。






ヒューーーーーードドン



ヒューーーーー…ドンドン









「蒼井さん」




遥奏くんが、私の右手に指を絡めた。

驚いて彼の顔を見上げると、視線がぶつかった。

運命の赤い糸が交わった。









ヒューーーーーーーーーーー











「好きだよ」











…ドン!!










心臓が破裂した。

呼吸が止まった。

思考が停止した。










私は…










頷いた。









「私も好きだよ。…遥奏くんのこと」








右手を力強く引っ張られ、そのまま彼の胸の中に埋まった。


 



伝わる体温。


聞こえる鼓動。


少し緊張した息遣い。










午後8時18分27秒。

あの夜に偽りは無かった。