HARUKA~恋~

午前8時15分15秒。


私は稲妻に撃たれた。








「…遥奏くん?」

「おはよ」


私の後ろの席が遂に持ち主に使われる日がやって来た。

私だけじゃなく、周りの生徒も驚いて、ドアを開けるな否や、口をあんぐりと開け、呆然と立ち尽くしてしまう生徒もいた。


「みんな、驚き過ぎ。オレに対して失礼」


そんなことを言って私を笑わせてくれたけど、それ以降は体調が思わしくないらしく、机に顔を突っ伏して眠っていた。

でも、これはかなりの進展だった。

岡安先生は、私が粉骨砕身してくれたと思って、お褒めの言葉を下さったが、私というより本人が努力したのだと思う。
 

全てのことに置いて、最終的には本人。


私は小さい頃から、そう言われて育って来た。


自分の意志で生きること。


そう、私の大切な人は常々口説いていた。






「いやあ、遥奏がまさか教室にいるとは思わなかったよ。昨日ラインした時は何も言ってなかったのに…。ケチだな、お前は」

「今日はなんとなく行けそうな気がしたから行っただけ。実際にこうして保健室にいる訳だし。明日もどうなるかわかんねーよ」

「結局、気まぐれかよ」


必死に嬉しさを紛らわそうとする宙太くんを見ていたら、なんだか笑いたくなってきた。


「なんだよ、アオハル。何笑ってんだよ?」

「いや、宙太くんは素直じゃないなぁと思って。遥奏くんが戻って来てくれてホントは嬉しいんでしょ?嬉しいなら嬉しいって言ったら良いのに」

「うるせえ!!べつに嬉しくなんかねぇし」

「宙太くん、酷いね~」

「オレのこと、心配してくれてなかったのか。残念だわ」

「ああ…もう、いちいち面倒くせえなあ!!嬉しいよ、遥奏…嬉しい!」


宙太くんがベッドに横になっていた遥奏くんに襲いかかった。

遥奏くんが必死に彼を引き剥がそうともがく。

私は益々おかしくなって、彼らのじゃれ合いに背を向けてクスクス笑った。


「アオハル、お前が言ったんだぞ!?ちゃんと見届けろよ!」

「ごめん、ムリ」

「ああん!?責任をとらない気か!?」

「宙太、うるさい。黙れ」

「なんだよ、お前ら、俺に対して冷たすぎだろ!ボケを拾えよ!俺も必死なの」




ああ、おもしろい…





面白過ぎて目から涙が出てきた。




ずっとこのまま笑っていたい。

ずっとずっと3人で笑ってたい。




不思議な出逢い方をしたあの日から、もうすぐ2ヶ月。

歯車は徐々に回りだしていた。



そして、私は確実に変わっていた。

去年の私の蛹を破って蝶になろうとしていた。

来年の春に大輪の花を目指して飛んで行けるのだろうか。







私はまだ、春を知らない。