HARUKA~恋~

宙太くんが真剣な表情でここに至るまでのいきさつを話している姿は、私の脳裏に色濃く焼き付いた。 
胸がギュウッと締め付けられた。



理由は違えど自分と同じイジメにあっていた遥奏くん。



最初は、何で自分が知らない人のために保健室に通わなければならないのかと疑問に思っていたけれど、これは私の宿命だと思うようになった。


私にしか出来ないことだ。

痛みが分かる私でなければならないんだ。
 
私が助けてあげるんだ。 


私は宙太くんをこの時初めて真っ直ぐ見ることができた。


「私、長内くんに協力する」

「マジ!?チョー嬉しい!…ってか、お前がそう言わなくても、協力してもらうつもりだったけど」


宙太くんが悪い人じゃないんだなって思うのは、こういう素直に喜怒哀楽を表現するところが見え隠れするから。
だから、私の心もクリアになって、彼と頑張ろうと思えるのだ。


「あのさ、突然なんだけど…」
 
「何?」


いっつもパワフルな話し方で私を圧倒するのに、妙によそよそしい。

私は彼の言葉をじっと待った。


「んーと、その…、“お前”って言ってごめん」
 




―――――へ?


別にそのことに対してなんの感情も湧いてなかったんだけど…。

私、無意識の内に嫌な顔でもしてたのだろうか。


「でさ、ニックネーム、良いの思いついたんだけど、言っても良い?」


私は首を縦に振った。


「アオハル。蒼井晴香の略で、アオハル。…なんか、よくね?」

「うん。すごく良いと思う。私そんな呼び方されたこと無い」

「じゃあ今日からアオハルって呼ぶからな~。よろしく頼むぜ!
ちなみに俺のことは好きに呼んでくれて構わないよ。友達からは大抵名前で呼ばれてっけど」

「普通に宙太くんって呼ぶね。その内仲良くなったら呼び捨てにするかもだけど…」


なんか恥ずかしかった。
くすぐったかった。

自然に笑って男子と話せたのは、いつぶりだろう。

というより、初めてかもしれない。

私はひょんなきっかけでこんなにも早く楽に話せる相手が見つかって、素直に嬉しかった。

1人じゃないんだって実感できて、それが私の心に張り付いた分厚い氷を数センチ溶かした。


「じゃあ、早速なんだけど、アオハルには放課後に遥奏のとこに行ってほしい。アオハルって確か、自己紹介んとき、帰宅部って言ってたよな?俺は練習あってなかなか行けねえから」

「うん、わかった」


宙太くんと約束を交わし、私は毎日放課後彼の元に通うことになった。