HARUKA~恋~

阿部遥奏。



小学生の時からバスケを始め、練習を積めば積むほど彼の腕前は上達した。
背も中学2年生の時にぐんと伸び、今では182センチの長身。
顔も整っていて、運動は全種目ともそこそこ出来、勉強も得意な彼はどのライフステージでも私とはまるで異なる、華やかなモテモテの生活を送っていた。


そんな彼を女子は勿論放っておくはずが無く、バレンタインのチョコは最大で100個もらったことがあるらしい。

ちなみに親友の彼は最大で25個。
これでも十分驚く数だが、常にライバル意識を燃やしていた彼にとってはかなり苦い経験だったみたい。


遥奏くんは宙太くんと二人三脚で猛勉強し、この進学校に入った。

そして、文武両道を目標に掲げ、彼らはバスケ部として共に汗水流していた。




―――――しかし、悲劇は起きた。


バスケ部のエース候補として、1年生の頃から活躍し、人気も上々の遥奏くんをよく思わない先輩たちが彼をいじるようになった。


そう、最初は“いじり”だった。
  



「お前、女子からモテモテじゃん」

「羨ましいよ~」

「ああ…そんな男に全部ボールを磨いてもらってそれで練習出来たら、絶対上手くなれるよなぁ」



先輩たちからのその言葉を素直に受け取った彼は、先輩や同級生がコートで練習している中、黙々と1人ボールを磨くようになった。

宙太くんはその様子に違和感を感じ、バスケ部の顧問にそのことを言ったらしいが、現状は改善されぬまま、ただただ月日は流れて行った。



そんなことがあり、遥奏くんは体育館の中で練習することはできなかったから、1人で自宅に帰って練習していたらしい。

そのお陰で体力や技術が衰えることも無く、1年生で唯一スタメン起用されて秋の大きな大会に出場した。

そのことが更に先輩たちに刺激を与えてしまった。

大会が終わると、バスケ部としてのオフシーズンに入り、“いじり”から“いじめ”に移行したのだ。



「コート、部室、体育館のトイレ清掃よろしくね~、ハルカちゃん」

「エースなんだからさ、もっと走り込みしなきゃ。校庭30周、休まずにいってらっしゃ~い」


真面目な遥奏くんは先輩に言われたことは絶対に遂行した。



でも、こういう人達はやってもやらなくても文句を付けてくる。

彼もまた、その呪縛の中に放り込まれてしまったのだ。







「真面目にこなして良い子ぶってんじゃねえよ!!」


粉雪がちらつき出す頃になると、一番体格の良い先輩が主体となって、彼に肉体的な痛みを与え始めた。

バスケットボールを矢継ぎ早に当てられたり、私がされたみたいにトイレに連れ込まれ、ホースを持ち出して来て、水をかけられたり、“放課後の放課後特訓”という名の過酷な練習を午後10時頃まで先輩たちに見張られながらやらされたりした。


親友の彼が当然気づき、再び顧問に駆け寄ったが、その頃はちょうど私のイジメ問題が発覚し、生徒が停学処分になるということがあってこれ以上イジメ事案を増やしたくなかったのか、取り合ってくれなかった。


宙太くんは遥奏くんを心配してクラスは違っていたけど、毎日彼の元に行ってたわいない話をしていた。

なんとかそれも励みになり、無事1年生の単位を取り終え、2年生に進級することになったが、春休みの練習から彼は顔を出さなくなったらしい。




私があの時見たのは、彼がバスケットボールに触れていた最後の瞬間だったのだ。




そして彼は保健室登校を始めたのだ。