歩き始めてどれくらい経っただろうか。
ここに来て、緊張と不安から胃が収縮し、急激にお腹が痛み出す。
針が次々と突き刺さってくるような痛み…。
耐えきれずに、その場にしゃがみ込む。
「蒼井さん、大丈夫?どうした?」
遥奏くんが私の目の前に来て私に右手を差し出す。
「立てる?」
力無く首を横に振る。
今の私は立つことも出来なければ、声を出すことも出来ない。
これはマズいことになってしまったと唇を強く噛んだ。
血が滲み出てきそうなほどに…。
「蒼井さん、乗って」
―――――えっ?
気づいたら彼の背中があった。
大きくて、若干背筋が浮き出ていて、頼りがいのある背中…
でも、その背中は数ヶ月前はこんなんじゃなかった。
私に向けられていたのは、痩せて骨が浮き出た、病弱な背中だった。
ここまで回復したんだね…
私はキリキリと痛むお腹が更に痛みを増すに違いないと思いながらも、彼の背中に飛び乗った。
「うおっ」
「あぁ…ごめんね」
「大丈夫。それよりちゃんと掴まっててね」
私が飛び乗ったせいでかなりダメージを受けたにもかかわらず、彼は私を心配してくれた。
本当に遥奏くんは優しいんだなぁ…
1年前の彼とはまた違う、不器用な飾らない優しさが遥奏くんにはあることを私は知っている。
春に出会って今日まで過ごした中で彼の優しさには何度も触れてきた。
ただ、こうして彼の背中の上で体温を実感するまではその優しさは不明瞭だった。
でも今、強く感じる。
伝わってくる彼の体温は彼の心の温かさであり、優しさだ。
「蒼井さんって宙太と仲良いよね」
彼は突然喋り出すのが癖らしい。
前を真っ直ぐ見つめながらぼそりと呟いた。
私の左手に移動した懐中電灯の周りに小さな虫がたくさん集まってくる。
光習性と言うらしい。
前に図書館の隅に隠れていた生物図鑑で見た。
反応に困った私は虫を凝視する。
自分の体がどんどん熱くなってくるのを感じて、思考が停止してしまった。
ーーヤキモチなの…?
「宙太はいっつも明るくて賑やかで良いよな。オレ、朝はぼーっとしてるし、人見知りだし、病気して迷惑かけて。良いとこ1つもねーな」
そんなこと…
そんなこと…
「そんなこと無いよ」
感情がようやく言葉になった。
「遥奏くんは…優しい。それに強いよ。あんなことがあっても負けないで学校に来てたじゃん。私、遥奏くんのそうゆうところ、すごくす…―――すごく尊敬してるよ」
危ない。あと少しで言ってしまうところだった。
胸をなで下ろしていると、前方から人工的な光が差し込んで来た。
「終わりだね…」
「うん…」
私の思いは届いただろうか。
彼の表情は見えなかったし、ハイキングの後すぐに養護教諭のところに引き渡されてしまったから彼と話すことも出来なかった。
無念のうちにナイトハイキングは終わりをむかえた。
午後8時13分11秒。
運命は本当にあるのだろうか。
月は寂しげに夜空の真ん中でその輝きを放っていた。
ここに来て、緊張と不安から胃が収縮し、急激にお腹が痛み出す。
針が次々と突き刺さってくるような痛み…。
耐えきれずに、その場にしゃがみ込む。
「蒼井さん、大丈夫?どうした?」
遥奏くんが私の目の前に来て私に右手を差し出す。
「立てる?」
力無く首を横に振る。
今の私は立つことも出来なければ、声を出すことも出来ない。
これはマズいことになってしまったと唇を強く噛んだ。
血が滲み出てきそうなほどに…。
「蒼井さん、乗って」
―――――えっ?
気づいたら彼の背中があった。
大きくて、若干背筋が浮き出ていて、頼りがいのある背中…
でも、その背中は数ヶ月前はこんなんじゃなかった。
私に向けられていたのは、痩せて骨が浮き出た、病弱な背中だった。
ここまで回復したんだね…
私はキリキリと痛むお腹が更に痛みを増すに違いないと思いながらも、彼の背中に飛び乗った。
「うおっ」
「あぁ…ごめんね」
「大丈夫。それよりちゃんと掴まっててね」
私が飛び乗ったせいでかなりダメージを受けたにもかかわらず、彼は私を心配してくれた。
本当に遥奏くんは優しいんだなぁ…
1年前の彼とはまた違う、不器用な飾らない優しさが遥奏くんにはあることを私は知っている。
春に出会って今日まで過ごした中で彼の優しさには何度も触れてきた。
ただ、こうして彼の背中の上で体温を実感するまではその優しさは不明瞭だった。
でも今、強く感じる。
伝わってくる彼の体温は彼の心の温かさであり、優しさだ。
「蒼井さんって宙太と仲良いよね」
彼は突然喋り出すのが癖らしい。
前を真っ直ぐ見つめながらぼそりと呟いた。
私の左手に移動した懐中電灯の周りに小さな虫がたくさん集まってくる。
光習性と言うらしい。
前に図書館の隅に隠れていた生物図鑑で見た。
反応に困った私は虫を凝視する。
自分の体がどんどん熱くなってくるのを感じて、思考が停止してしまった。
ーーヤキモチなの…?
「宙太はいっつも明るくて賑やかで良いよな。オレ、朝はぼーっとしてるし、人見知りだし、病気して迷惑かけて。良いとこ1つもねーな」
そんなこと…
そんなこと…
「そんなこと無いよ」
感情がようやく言葉になった。
「遥奏くんは…優しい。それに強いよ。あんなことがあっても負けないで学校に来てたじゃん。私、遥奏くんのそうゆうところ、すごくす…―――すごく尊敬してるよ」
危ない。あと少しで言ってしまうところだった。
胸をなで下ろしていると、前方から人工的な光が差し込んで来た。
「終わりだね…」
「うん…」
私の思いは届いただろうか。
彼の表情は見えなかったし、ハイキングの後すぐに養護教諭のところに引き渡されてしまったから彼と話すことも出来なかった。
無念のうちにナイトハイキングは終わりをむかえた。
午後8時13分11秒。
運命は本当にあるのだろうか。
月は寂しげに夜空の真ん中でその輝きを放っていた。



