(駄目、駄目)

 お客様のプライバシーには干渉しない。

 それがサービス業においては必要なことだ。

 たとえ、元彼女とかが来たとしてもだ。

(え?)

 自分の考えたことにハッとした。

(何を考えているんだ、俺は)

 とにかく今は仕事に集中しよう。

 そのあとはあっという間に時間が過ぎていった。



「休憩に行ってきていいぞ」

 同僚の言葉に頷いて、休憩のために事務所へと向かった。

「あれ?」 

 横を一瞬の風が通り過ぎた。
 
 それは瞬きをするようなわずかな時間。

「今のはなんだったのだろう」

 このときの俺は気づかなかった。
 
 これから起きる出来事に。



 夕暮れ時、子供のお客さんは少なくなり、大人のカップルが増えてくる。

 自分も少し前まではその中の1人だった。

「どうぞ」

 観覧車のドアを開けて、中のお客さんを降ろし、次のお客さんを乗せていく。

「どうぞ」

 気づくと閉園の時間は近づいていて、今日最後に乗せるお客さんだった。