「あれ、お前の家の方向、こっちなんだ?」

俺もなんだよね。一緒に帰ろうよ。なんて言って、こっちは何も言ってないのに有無を言わせず隣りに立ち、歩くあいつ。



それからかな、一緒に帰るようになったの。












「お前、またバテたよなー。体力つけろよ」


「うるさいな。暑いの苦手なんだよ」


「知ってる」


「そりゃどーも」



こうやって、他愛もない会話をしながら帰るのだ。
元々一人で帰ってたから、賑やかになっただけだと思うけど、嫌いじゃなかった。し、何故だかコイツといると夏の暑さを忘れる。涼しさすら感じる。コイツは保冷剤か何かだろうか。


うちのクラスのアイツが。社会の先生が。購買でアレを買った。掃除つまらん。とか、実際どうでもいいような話ばかりだ。


まあ、私よりあいつの方が主に話していくだけなのだが。


私は聞いて、相槌を打つだけでも十分楽しい。



楽しいか。



「てか、暑くね?ジュース買お。ジュース」


くいっと親指で自販機を指す。


「アンタの奢りな」


「え、俺が奢るのかよ」


「冗談だよ」


小銭をじゃらじゃら鳴らしながら、どれにしようかと悩むアイツ。
何がいいと思う?とかジュース如きで無駄に悩んどいて、結局は無難にお茶を買っていた。


さて、私は何にしようか。
私は、財布を出すためにカバンの中を漁る。


その時、ヒヤリと冷たい何かが頬に触れる。


それで驚かないわけもなく、


「冷たっ!」


何すんの、と言うつもりが財布を出すために下に落としていた視線を上にあげてピタリと喉の奥で留まった。


「お前、これよく飲むだろ。」


ほい、と渡されたのは、さっき部活で飲んでいたものと同じやつだった。


「え、奢り?」


「奢り」


「よっしゃ。金浮いた」


「おいコラ、返せ」



















「んじゃ、また明日な」


「ん、また明日」


お互いに手を振って、別々の帰路にたつ。


1人になった途端、忘れていた暑さがじわじわと襲ってきた。


家に帰ったらアイス食べよう。


さっき、奢ってもらったジュースはもう既に生ぬるくなっていた。


ペットボトル片手に私は空を見上げた。


オレンジに色に染まる空、もう夕暮れ時だ。

それでも夏の暑さは消えない。あいつといた時のあの涼しさはなんだったのか。






やっぱり夏は嫌いだ。




ぬるくなったジュースを口に含んで私はそう思った。