「ここちゃん」

「え?」

呼ばれて振り返った瞬間、目の前にあった信洋さんの顔に言葉を失う。

そこで止まることなく距離を詰めてくる信洋さんに反射的に目を閉じるけど、それ以上はいくら待っても来なかった。

恐る恐る目を開けると、悪戯をしたような顔で笑っている信洋さんの顔が目の前にあって、そんな気は更々なかったんだと気づいて顔が熱くなる。

文句を言おうと口を開いたとき、突然後ろに引っ張られて息が詰まる。すぐに誰かの腕に受け止められたけど、心臓がバクバク音をたてて落ち着かない。

今度はなに?振り返ろうとすると、突然唇を奪われてしまう。…なんで、季龍さん……?

「っは……んん!?」

「え、ちょい若ー?」

な、なにこれ!?あ、頭がくらくらしてきた…。

気づいたときには腰を抜かしていて、季龍さんに支えてられていた。

「信洋、てめぇ…」

「若、早とちり。俺なーんもしてない」

「あ゛ぁ!?」

「信洋の言う通りだぜ、若。まぁ琴音はびっくりしてたけどな」

信洋さんの助け船を出した平沢さんの言葉に、季龍さんはまだ疑いを持ったままの目はしていたけど、先ほどまでの怒りは静まったみたいだ。